お薬研究所 : 2011年5月号 [2011.5.24up]
お薬研究所では「薬局でのこんな相談」や「病気の話」など、皆さまの健康に役立つ情報を掲載しております。
» 過敏性腸症候群
├ 1. 過敏性腸症候群(IBS)とは?その症状は?
├ 2. 原因は?
├ 3. 症状が出るきっかけ
├ 4. 症状は繰り返して悪循環?
└ 5. 治療法
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病気の話「過敏性腸症候群」
過敏性腸症候群(IBS)とは?その症状は?
大腸・小腸に原因となる形態的な異常が見つからないのに、便通異常や腹部症状を慢性的に繰り返す疾患です。
主な症状は腹痛・腹部不快感、下痢・便秘などの便通の異常で、下痢型・便秘型の2のタイプに分けられます。
また、これらの症状のうち一つではなく複数の症状が連鎖するように出たり、または下痢症状と便秘症状を繰り返すこともあります。
IBSはお腹の症状を繰り返すことで、日常生活に支障をきたしたり、またそのことで、不安感・不眠・抑うつ(外出がおっくうになったり、意欲の低下)などの精神症状につながったり、このような精神症状から、頭痛・疲れやすい・肩こり・眩暈などの全身症状を引き起こしてしまう人も見られます。
原因は?
原因ははっきり分かっていませんが、いろいろ考えられる中から大きな要素となっているのがストレスと言われています。
なぜ、ストレスから胃腸障害がおきるのでしょう?
腸は食べたものがスムーズに運ばれるように蠕動運動をしています。これは腸の筋肉が縮んだり伸びたりして腸内容物を送り出す運動です。
この運動によって食べたものは胃で消化され、小腸をゆっくりと動く間に栄養素を吸収し、残りかすは大腸で水分を吸収し最終的に程よい硬さになって排泄されます。
この運動は腸内に張り巡らされた神経組織が内容物を感知、また、自律神経を介して脳と連携し腸の運動を二重に支配してコントロールされています。
このことから強いストレスなど感じることで、自律神経が不安定となり腸の運動が異常を引き起こし、腸内の知覚が過敏になったり、鈍ったりすることで腹痛や違和感・下痢・便秘を引き起こすと考えられています。
症状が出るきっかけ
- 通勤や通学時(電車に乗っているときなど)
- 席を外せない時(試験や会議など)
- 旅行や出張など
- 生活環境が変化した時
このようにストレスを感じた時や、トイレに行けない時ほど症状が出やすい傾向があります。
逆に休日や家にいるとき、寝てるときには症状が少なかったり、出ないということも特徴と言えます。
症状は繰り返して悪循環?
治療法
過敏性腸症候群の治療については病院では症状を緩和させるためにお薬をもらうことが多くなると思いますが、原因にストレスが大きく関与していることから、ストレスやライフスタイルを改善することがとても大切です。
- » 胃や腸の刺激を改善するための食事療法
- 下痢を繰り返す時は、腸内の知覚が過敏になっている状態です。そのため香辛料や冷たいものを多くとる、脂っこい物、アルコール類といった刺激の強いものは避けることが望ましいでしょう。
便秘を繰り返す時は、刺激物を避けることがよいでしょう。また、便秘は水分が少なくなり固くなっている状態です、水分をしっかり取り便中に水分を保持させるために、食物繊維を多くとるようにしましょう。
食事は規則正しく、適切な量を取ることも大切です。どちらの症状でも、暴飲暴食は控えるようにしましょう。 - » 運動療法
- 胃腸の働きと適度に運動することは関係なさそうですが、血液の循環がよくなることで、腸内の温度が適正に保たれ、腸の運動・機能の回復が期待されます。
- » 薬物療法
- 食事療法や運動療法が基本ですが、下痢などの症状そのものがストレスとなり繰り返すことが治療の問題となります。
そこで症状に合わせた薬を使用することで症状の緩和し、それがストレスや不安の軽減となり、症状の改善となる手伝いをしてくれることと思います。
どの様な薬が使用されるかは症状などによりいろいろな薬が使い分けられます。
- 消化管運動を調節する薬
動きが激しく下痢をしてしまう症状では、腸の動きを抑える薬を使用します。逆に動きが鈍く便秘であれば、腸の動きを活発にする薬を使用します。
どちらも薬の作用が強くなると便秘したり下痢したりしてしまうことがあります。 - 乳酸菌製剤
お腹の中にはもともと多くの細菌が住んでいます。中には私たち人間が作れないビタミンを作ってくれたり、消化を助けたりするような大切な細菌(善玉菌)もいれば、悪さをする細菌(悪玉菌)もいます。これら細菌はよいバランスであれば腸をスムーズに動かしてくれますが、悪玉菌が増えたりなどのバランスが崩れると、下痢や便秘、ガスが溜まるなどの異常な症状を引き起こします。
乳酸菌製剤はこれらの最近のバランスを整えて症状を改善します。
どちらも薬の作用が強くなると便秘したり下痢したりしてしまうことがあります。 - 下剤
便秘型に使用します。下剤には2つのタイプがあり、便に水分を含ませて便を軟らかくして排泄しやすくする薬剤と、腸を刺激して腸の運動を活発にして便を排泄する薬剤があります。
これらの薬も作用が強く出ると下痢や腹痛といった症状が出ることもあります。 - 抗コリン薬
腸の過剰な動きや痙攣を抑えることで、下痢や腹痛の症状を改善します。
コリンという物質が腸の動きを活発にするスイッチをONにしています。それを抑えることで症状を改善していますが、コリンは他でも重要な働きをしています。たとえば唾液を出すスイッチになっています。そのため、この薬剤の使用で口が渇いたりすることもあります。また、眼圧を上げることがあるため、眼圧のコントロール(緑内障)をしている方は医師・薬剤師に相談してください。 - セロトニン3(5-HT3)受容体拮抗薬
セロトニンという物質が腸の運動を活発にする作用があります。
この薬剤は腸内でのセロトニンの作用を阻害します。それによって腸の異常な運動を改善し症状の改善をする薬剤です。
セロトニンは脳内でも重要な働きをしていますが、ここに使用される薬剤は脳などには関与しない特徴があります。
またこの薬は症状の改善に対して男女差があり、便秘の副作用が女性に多くみられることから、現在は男性のみの使用になります。 - 高分子重合体
水分を吸収する薬剤です。下痢・便秘の両方の症状に使用されます。
下痢では多い水分を吸収し便を適度な硬さにし、便秘では水分を含ませることで適度に柔らかくする作用があります。 - 抗不安薬など
機能的な症状の緩和ではありませんがストレスが原因となったり、またなったらどうしようといった不安な状態が症状を引き起こしていることから、不安などを緩和する薬剤を使用することもあります。
眠気といった副作用や、疾患によって服用できないこともあるため医師・薬剤師に確認してください。
過敏性腸症候群の克服には個人では焦りや不安などで悪循環を繰り返しやすいものです。また時には違う疾患が隠れているかもしれません。そのためいつも診てもらっている内科や消化器内科、心療内科といった専門の医師のアドバイスを受けることをお勧めします。